日本語教室で多読のコースを開いてみたイギリス人日本語教師の感想

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私はどっちかといえばもの静かなほうだと思いますが、日本語を教える時はうるさい時もあります。授業では歌を歌ったり、盆踊りを踊ったり、にぎやかなゲームをしたりしています。隣の部屋で会議を行おうとしていた人たちに「少し静かにしてくれませんか」と注意されたこともあります。 

でも、2018年に私はとても静かな日本語の授業を開きました。この授業では、生徒は主に一人で黙って勉強していました。 

私はその授業の「先生」だったけれど、私も一人で手作りの絵本を読んでいて、時々生徒が大丈夫かを確かめるために目を上げただけ。

これは「多読」です。普通の日本語の授業と全然違う読解の学習法です。

多読とは、文字通りたくさん読むことです。簡単な本をたくさん読んで、外国語を身につける方法です。多読では、今の勉強のレベルより少し簡単なレベルの本を読みながら、新しい言葉や表現や文法を自然に習うことができます。 

私は、多読の「授業」を開くのにかなり緊張していました。生徒が読んでいる間、私は先生としてどうすればいいかな?そこに座るだけ?生徒は一人で読むなら家ですればいいんじゃない?いったい誰が「静かに一人で読む」クラスに参加したいのだろう?

ネットでいろいろ調べて、東京にある多読を支援する団体である「NPO多言語多読」から多読の本を取り寄せました。

事例紹介や実際的なアドバイスがたくさん入っている「 日本語教師のための多読授業入門」*という本も買って読み始めました。

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NPO多言語多読のメンバーからもメールで応援メッセージをもらって、自信が少しつきました。

その後私の新しい多読のコースはブライトンの新聞にも掲載されたんです! それを見て、かなり緊張し始めました。

多読の本が日本から届いて、私の生徒には良さそうなレベルだと思いました。でも正直、少しつまらないんじゃないかと心配しました。大人の生徒は本当に「3匹の子ぶた」が読みたいのだろうか?でも、自分で読み始めて、驚きました。すごく楽しかったのです。

絵本だからわからないときは、絵を見て推測してみることもできます。絵を見てもわからないときは、コンテクストから推測するのもいいです。それでもわからなければ、続けて読むだけでいいです。

ただ、辞書を使うことだけは許されていません。(私はこのルールに加えて、知らない単語の意味を先生に聞くのもダメだ、ともうちょっと厳しくしてみました。)

辞書を引いたり言葉の意味を聞いたりするのは、読むことを遮って進むペースが遅くなるんです。そして読むのが楽しくなくなって、生徒はやる気がなくなってしまいます。そこで、多読では知らない単語や表現に出会う時は、飛ばし読みが勧められています。

もう少し先を読めば自然にわかるようになりますから。そして、(これが面白いよ!)時々わからなくて大丈夫です。読めば読むほど、外国語を理解するのが易しくなるんですよ!

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私は2007年に日本語を勉強し始めましたが、初めて日本語の本を丸々一冊読み終えたのは2012年でした。あの5年間に多読のことを知っていたらどんなにたくさんの易しい日本語の本が読めていただろう、と今思います。 

私の多読のグループに参加した生徒の中には、1年間しか日本語を勉強したことがない人もいましたが、2、3回目のクラスまでに(つまり、2〜3時間の間に)様々な日本語の本も読めたのは、大変な業績だと思います。

レベル別に分かれていて、簡単で、短い本だからこそ、Step Up Japaneseの生徒は早く楽しく読めました。

多読の読み方のルール
NPO多読のウェブサイトから引用)

1.やさしいレベルから読む

絵がついていて、母語に訳さなくても読めるやさしいものから読みましょう。絵をじっくり見て本の世界に入ることが大切です。

2.辞書を引かないで読む

わからない言葉を辞書で調べていると、速く読めません。ゆっくり読むと、つまらなくなってしまいます。わからない言葉が出てきても、辞書を引かないで、絵を見たり、その後の文を読んでみましょう。

3.わからないところは飛ばして読む

絵を見たり、ちょっと考えてもわからない部分は、飛ばしてしまいましょう。楽しく読めていれば、全部わからなくていいのです。

4.進まなくなったら、他の本を読む

進まないのは、読んでいる本が難しいか、興味がないからです。その時は止めて他の本に替えましょう。

生徒がルールを守れるかどうかという心配もありました。辞書を開きたくなったり、興味がないのに無理やり本を読み続けたりすることも絶対あると思いました。みんなにとって和やかな雰囲気が作りたかったけれど、リラックスしすぎた感じだったら、生徒が本を読まずにおしゃべりしてしまう可能性もあるんじゃないか、という不安もありました。 

でも、心配することはありませんでした。みんなしっかりルールに従って勉強できました!だって、本をたくさん読むために多読のコースに参加したんですから。

「辞書なし」というのは一番大変だったらしいです。授業の終わりに「ルールに従って多読できた?」と聞いたら、ある生徒は今まで見たこともない漢字一つをこっそり辞書で調べたことを告白しました。その漢字は「臼」でした。 

「続けて読んでみたらコンテクストからわかったかもね」と私は言いました。(あと、「臼」はほとんど見かけない漢字なので、調べないで本を読み続けたほうが効率のいい学習法でしょう?とも思いました。)とは言っても、基本的に生徒は辞書を使わずに楽しく読めました。 

一回目の授業が終わったら、買った本の数は少なかったと気づきました。生徒がこんなに早く読めると思いませんでした。ネットで多読の本をもっと注文しました。

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6週間多読をして、生徒にはいろいろなメリットがあったと私は思います。そして、私も先生としていろいろ学ぶことができました。

これまで授業のために読み物を選ぶとき、私はできるだけ面白そうなものを選ぼうとしてきました。時間があるときは自分で短いストーリーを書いたりもします。でも、多読で読んだ本と比べたら、どれも面白くないなと気づきました。

それはなぜかというと、基本的に教科書に載っている読み物はつまらないからなんです。

簡単な読み物でも面白いものがたくさんあるというのは、多読が私に教えてくれたことなんです。

「ラーメン麺太の冒険」(右)は人気の作品一つでした。

「ラーメン麺太の冒険」(右)は人気の作品一つでした。

始める前に、生徒はどの本を読めばいいか、自分にとってどのレベルがいいかわからないこともあるんじゃないかと思ったけれど、そういうことは全くありませんでした。生徒は自分が興味のあるトピックで、自分のレベルに合わせた本を選ぶことで、自分の日本語のレベルにも自信がつきました。

授業中、私も簡単な楽しい本を読んで、質問されたときはこんな風にかわしました:

Bさん: 先生、これはどういう意味ですか。

自分: Bさんはどう思いますか。

Bさん: あ、そっか。ルール2ですね。

6週間のコースの真ん中で、私は夏休みの旅行でポルトガルに行ってきました。ビーチでビールを飲みながら「コンビニ人間」という日本語の本を読みました。辞書を開かずに、知らない単語を深く考えずに、早く楽しく読めました。 

つまり、「多読」という勉強法は生徒だけではなく、私にも革命的でした。

2007年に知っていたらよかったな、と今思います。あの初めの5年間でどんなにたくさんの易しい日本語の本が読めていただろう! 

来年の多読コースについて考えてみたら:

  • 音楽を聴きながら読むのはどうかな?

  • 一年で6週間以上した方がいいんじゃない…?

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